ルクスさんの兵器解説 第3回
フクスさんの兵器解説
Tpz.1フクスA8
作成;2009/04/01


Photo by Rheinmetall
兵器解説第3回は、Tpz.1A8!
ドイツ連邦軍のTpz(輸送装甲車)フクス(狐)の最新バージョンだよ。

今回はボクが、紹介するよ!
Tpz.1フクスについては、当中隊の同人誌「ドイツ連邦装輪装甲車開発小史 冷戦期編」で解説しましたが、発行後に新しいサブタイプが発表されたのでご紹介させていただく運びとなったのです。
んで、いきなりA8って言っても、↑の同人誌読んでない人は置き去りになっちゃうから、簡単にフクスについて教えるよ。
 
Tpz.1フクスの開発と構造

Tpz.1(基本の輸送型)
Photo by Heer
 Tpz.1フクスは、ドイツ連邦軍の要求によりダイムラー・ベンツが開発し、1979年から生産が始められた。本車は、前線の戦闘部隊への人員・物資の輸送を目的として開発された。
 フクスの構造は、前方から操縦席、その後方にエンジンルームが左によせて配置してあり、空いた右側は、後部へのアクセストンネルになっている。後部は兵員・貨物室になっている。乗員は、操縦席に車長と操縦手が、後部の兵員・貨物室に10名が着座する。車体後部には、観音開きのハッチがあり、乗員の出入りや、貨物の積み下ろしに使用する。兵員室の天井には、円形の大型ハッチがあり20㎜機関砲塔等を設置することが出来る。路上最高速度は105㎞/hで、車体後部の2基のスクリューで浮航することも出来る。

 フクスは、輸送装甲車として開発されたが、ボスニア等の平和維持活動では他に適当な車両が無かったため装甲兵員輸送車としてパトロールに使用された。
Tpz.1フクスのサブタイプ

Tpz.1A1フンメル(電子戦型)
Photo by Heer
 フクスの後部には広い貨物・兵員室があって、派生型を作りやすいんだよ。ドイツ連邦軍は、科学偵察型や指揮・通信型なんかを沢山装備しているよ。輸送型のフクスの生産数は、全体の5分の1くらいなんだ。
  • Tpz.1  基本の輸送型
  • Tpz.1A1 電子戦闘型 15kwの発電機を装備している
  • Tpz.1A2 指揮通信型 5kwの発電機を装備している。
  • Tpz.1A3 化学偵察車型
  • Tpz.1A4 Tpz.1にSEM80/90無線機を搭載したもの。
  • Tpz.1A5 Tpz.1A2にSEM80/90無線機を搭載したもの。
  • Tpz.1A6 Tpz.1A3にSEM80/90無線機を搭載したもの。
  • Tpz.1A7 MEXAS増加装甲を装備したもの。エアコンを装備するなどの改良もなされている。

 上記の呼び名は、あくまでプラットフォームとしての名称であり、ここにミッション・キットを組み込んでサブタイプが完成する。
 例えば、15kw発電機を搭載したTpz.1A1に、VHF測定機材を搭載するとパイラーとなり、EF3電子妨害機材を搭載するとフンメルとなる。
 


Tpz.1PiGrp(工兵型) Photo by Heer


TPZ.1A2PARA(戦場監視レーダー搭載車) Photo by Heer




 フクスは、ドイツ連邦軍向けに1000以上が生産され、外国にも200両以上が配備されている。
みんな、これまでのフクスのことは分かったかな?

それじゃあ、A8の説明をするよ。
 
Tpz.1A8

Photo by Rheinmetall
Tpz.1A8は、ドイツ連邦軍のストックをラインメタルがアップグレードして製造したんだよ。改修のポイントは、非対称戦で特有の脅威への抵抗力の強化!
 2008年3月に、ラインメタルは地雷やIEDに対する防御を強化したTpz.1フクスの最初の1両を連邦軍に引き渡した。連邦軍はこの改良は成功であると判断し、緊急に必要ということで発注し、2008年6月までに21両を受け取った。6月の時点で正式名称は記載されていなかったが、10月31日には、ラインメタルのHPでTpz.1A8として紹介されている。 
 この21両には、いくつかの派生型が含まれている。内訳は、5両が救急車に、2両が指揮車、3両が工兵車、11両が兵員輸送車となっている。このうち10両がアフガニスタンのISAF部隊に配備されている。※
※ Defence Professionals:Fox Reloaded ? When a look back is a step forward

Tpz.1A8の引渡し。
Photo by Rheinmetall
Tpz.1A7からA8ヘの変更点
  • 車体フロアーへの地雷防御プレートの取り付け
  • 新しいシートとサスペンションの導入により、乗員は床から離れた状態になる。
  • 強化型スティール・アーマー・コンポーネントによるホイールガードの強化
  • ドアの強化
  • ドアのガラスの取り付けの強化
  • 車体外部の外部貨物ボックスの装備
 これらの改良はISAFでの経験を反映したもので、主に地雷とIEDに対抗するものである。ラインメタルは、これらの改良によりフクスは2020年を超えて使用可能であるとしている。

2008年6月に発表された画像
Photo by Rheinmetall
車体前部に湾曲したバー見える。路上に張られたワイヤーで、ミラーが破損するのを防ぐ為のものだろうか?10月に発表された写真にはついていない。重量表示は25tとなっている。

2008年10月に発表された画像
Photo by Rheinmetall
ここまでは、ドイツ連邦軍に引き渡されたタイプだけど、まだ続くよ。
ラインメタルは、Tpz.1A8にMOUT(市街地における軍事作戦)キットを組み込んだ市街戦型を輸出向けに提案してるんだよ。
 
市街戦型のデモンストレーター

Photo by Rheinmetall
 ラインメタルは、ドイツ連邦軍以外にも多くの顧客を獲得すべく、MOUT(市街地における軍事作戦)キットを装備したデモンストレーターを製造している。これは、ドイツ連邦軍仕様のTpz.1A8が受動的な形で非対称戦に対抗したのに対し、このデモンストレーターはより能動的な構成となっている。MOUTキットは以下の装備から構成されている。
  • NANUKリモコンガンマウント
  • SKWA360°グレネードランチャーシステム
  • Rosy-L急速遮蔽システム(スモーク・ディスチャージャー)
  • INIOCHOS 戦場指揮及び統制システム
  • AMAP-ADS アクティブ・ディフェンス・システム
  • SAS状況把握システム(カメラ)
  • ドーザーブレード
 恐らくこれらは、SAS(カメラ)で脅威を確認し、SKWAやRosy-Lで対処するものと思われる。これにより市街地等の入り組んだ地形で、死角から不意に現れる脅威に対処できるようになるだろう。
 以下は、MOUTキットを構成する機材を解説する。

Photo by IBD

 
NANUKウェポンステーション

Photo by Rheinmetall
 NANUKは、ラインメタルが開発したリモコン式ウェポンステーションで、中型及び大型車両での運用を想定している。NANUKは、従来のガンマウントと異なり車内から操作できるので、乗員が銃火に晒されることが無い。このため、平和維持活動や法執行活動そして国境警備に適している。このシステムはモジュール化されており、顧客の要望に応じて様々な火器や光学機器を組み込むことが出来る。この時、弾道コンピューターの照準・射撃シーケンサーが射角を自動的に調整する。また本システムは単独で使用することも出来るが、ネットワークに統合して使用することも出来る。
 
SKWA 360°グレネードランチャ

Photo by Rheinmetall
 SKWAは、接近戦用の回転式の多目的グレネードランチャーである。本システムは、主武装(例えば戦車の主砲)から独立して使用できる副武装として開発された。これにより、主武装をより重要な目標に指向させつつ、他の目標に対応する事が出来る。
 8基の76mmグレネード・ランチャーには、異なる弾薬を装填する事が出来る。本システムは、個別に、或いは連続、一斉射撃が可能である。弾薬は、破片榴弾、煙幕があり、非致死性ものとしては、催涙ガス・キャニスターやゴム・ボール弾が使用できる。
 殺傷範囲は、車両から35mから100mに調整する事が出来る。射角の調整や、発砲の発令はCAN-busを介して管制する。
 SKWAは、車両に搭載して使用することも出来るが、単独で使用することも出来る。
国防軍時代の戦車に、Sマインが装備されてたのを思い出すね。

ROSY-L急速遮蔽システム

Photo by Rheinmetall
 Rosy-Lスモーク・プロテクション・システムは、軍用の軽車両や民間車両を襲撃から守る為に開発された。Rosy-Lは、従来のスモークディスチャージャーと異なり、自発的に煙幕を広範囲に展開し、広範囲の波長で通視線誘導兵器を妨害する。加えて、様々な任務に対応する能力があり、連続攻撃や波状攻撃に対抗する。赤外線妨害やデコイ能力を有し、TV、IR、レーザーを用いた誘導兵器の光学機器やレーザーレンジファインダーを妨害する。
 本システムは、車両の外郭に1~4基を設置することで広範囲をカバーできる。各ランチャーには、1~3個のマガジンを収容する。また本システムは、コンバット・マネージメント・システムやセンサーに統合する事が出来る。
 弾薬の種類や口径等の詳細は、今のところ情報がない。
 
INIOCHOS戦闘統括システム

Photo by Rheinmetall
 BMS(戦闘統括システム);Iniochosは、国際的な統合・共同作戦での情報交換が可能な指揮・統制システムである。本システムは、歩兵から旅団のコマンドポストの間での使用を想定されている。本システムは、フレキシブルなコミュニケーション・コンセプトにより、CNR (Combat Net Radios)或いは TDMA (Time Division Multiple Access)無線に直接接続することが出来る。この時、この二つの様式を分けて、情報を伝える事が出来る。これは、音声やデータ通信の他、画像を交換する事も出来る。
 Iniochosは、アメリカのブルー・フォース・トラッキング及びレッド・フォース・トラッキングに接続する事が出来る。これは、GPSを利用した敵味方位置情報把握システムである。情報はリアルタイムで更新される。
 本システムの、ハードウェアとソフトウェアはギリシャ陸軍で既に採用されている。
 
Amap-ADS アクティブ・ディフェンス・システム

Amap-ADSのイメージ


LAVでの装着例
Photo by IBD
  Amap-ADS は、ドイツのIBD社が開発した画期的なハードキル・アクティブ・ディフェンスシステムでHE弾のみならず大口径のAPFSDSやEFP弾をも迎撃することができる。Amap-ADSは、車両から10mの地点で目標を検知し、集中的なエナジー・ビームを照射して2mの地点で破壊する。
 Amap-ADSはリアクションタイムは600ミリセコンドと短い為、速2000m以上で飛来する目標を迎撃することができる。このため、接近した目標から発射された飛翔体も迎撃する事が出来る。また一度に多数の飛翔体を迎撃することができる。重量は145~500㎏。生産は2008年から始められ、シリーズ生産は2009年からになる。
エナジー・ビームってなに?こんなのが実用段階にあるなんて信じられない・・・
けど、IBDのHPと製品カタログに書いてあるんだよ。

具体的なことは分からないけど、詳しいことが分かったら紹介するね・・・
AMAP-ADSのプロモーション・フィルム
 


まとめ
 非常に古い車両であるフクスが現在も戦闘価値を認められ、さらなる延命のため改修を受けているのに驚かされる。フクスは、最初のプロトタイプが引き渡されたのが1968年で、最初の生産車が完成たのは79年という、AFVとしては古い車両である。それでも、使用され続けているのはフクスの基本設計が優れているからではないだろうか。
 ラインメタルは、後部ドアの電動パワーランプ化など更なる改修について研究中であり、今後も改良型が発表される可能性がある。

 市街戦型は、フクスの設計自体が古いので新規生産で発注を得るのは難しいだろう。海外で使用されているフクスも、そのほとんどが化学偵察型なので、改修ビジネスとしても厳しいと思われる。しかし、MOUTキット自体は他の車両でも装備できると思われるので、ピラーニャ・シリーズ等を運用している国に採用されるかもしれない。


みんな、フクスのすごさが分かったかな?
 
古いけど、まだまだ働けるから大事につかってよ☆
参考資料
ラインメタルHP

IBD;AMAP-ADS

『Deutsch Rustungsindustrie』Tankograd「MILITARFAHRZEUG1/2009」
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