多目的車両 デューロ3 ヤク
2010/05/08;作成
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Photo by Heer
概要
 デューロ3ヤクは、ドイツ連邦軍が平和維持活動での使用を主眼に調達した装輪装甲車である。デューロ3は、医療部隊やEOD部隊等のかさばる機材を必要とする支援部隊で使用される。このため、ディンゴ等のパトロール車両よりも大型で、後部に大型の貨物区画を備えている。車体の構成は、市販の貨物トラックとほほ同じとなっているが、モジュール構造が採用されているため柔軟な運用が可能になっている。デューロ3 ヤクは、海外で使用されている非装甲の装輪車両を置き換えている。
 因みにヤクとは、チベット高原に生息する牛科牛属の動物のことで、この愛称はドイツ連邦軍仕様のデューロ3にのみ使用される。

装甲トラックの要求
 ドイツ連邦軍は、 冷戦後の国際状況の変化に対応して平和維持活動が本来任務とされると、既存車両に増加装甲を装着して任務に当てる一方で専用の装甲車両の調達を始めた。これは目的に応じて数種類が選定され、かさばる機材を使用する支援部隊用に調達されたのがデューロ3ヤクである。
 本車は、緊急に部隊配備を進める必要から、市場で購入可能なものから選定が行われた。この結果、スイスのモワーグ社が販売していたデューロ3トラックが選ばれた。そしてドイツ連邦軍の要求に合致するようにランメタル社が装甲の取り付けを含めた改修を施し、ヤクの愛称で採用された。
 ヤクと同時期に採用された装輪装甲車には、パトロール用のディンゴと空挺部隊用のムンゴがあるが、どちらも市販の車台をベースにしている。

ベースとなったスイスのデューロ3

 ヤクのベースとなったデューロは、元々スイスのBucher-Guyer AGがスイス軍の公募に応じて開発したオフロード トラックで、競合企業であるモワーグの草案に勝利して採用された。開発が始められたのは1979年で、1986年にプロトタイプが完成、1993年にスイス陸軍に約2000両が発注された。因みにDUROとはDurable(耐久)and Robust(強固)の略称である。
 こうして完成したデューロだが、Bucher-Guyer AGはリストラによりデューロの製造権をモワーグに譲渡した。いずれにしろスイス陸軍は、幅広い製造業者からの車両調達をモワーグに集中することをかねてから期待していた。
 その後、改良型のデューロ2、デューロ3が開発され、スイス軍での配備数は約3500両に増加した。4×4バージョンを含むデューロファミリーは各国で採用を拡げ、2010年現在までに約4000両が生産されたベストセラーとなった。スイスとドイツ以外にも、イギリス、マレーシア、ベネズエラが採用している。
 通常のデューロはキャビンやリア・プラットフォームにアルミを多用した軽量構造だが、装甲化されたデューロ3Pも販売されている。ドイツ連邦軍のデューロは、先述の通りラインメタルが装甲を取り付けている。

デューロ3ヤクの構造 

ドイツ連邦軍に引渡された初期のデューロ3
Photo by Heer
デューロ3 ヤクのコンセプト
 デューロ3 ヤクに要求されたのは、部分的な装甲、様々な任務をこなせる多様性、高い機動性、高い防御力であった。ドイツ連邦軍は、実際に完成しデューロ3 ヤクについて、ほぼ理想的な防御が実現されたとしている。

デューロ3 ヤクの基本構造
 デューロ3 ヤクは、重量12tの大型多目的車両で、6輪駆動車台、操縦室、後部モジュールの3つの基本的なコンポーネントから構成されている。これまでの軍用装甲車は軍事的な要求から独特の車内構成をしている場合が多いが、デューロ3は軍用とはいえトラックをベースとしているので民間の貨物トラックの様な構成となっている。
 操縦室と後部モジュールは、冷暖房装置及びNBC防御装置付きで、装甲化されており狙撃から兵員を守れるようになっている。車台もエンジン等の重要な部分は装甲化されている。
 後部モジュールは、モジュール構造により戦場でも短時間で交換することができる。これにより、異なる用途への変更を迅速に行える。また後部モジュールは独立して使用できるように設計されている。こうした設計はドイツ連邦軍にとって新しいものである。

操縦室
 操縦室は、新しい人間工学的要求で設計された。装甲化された操縦室は、冷暖房装置と視認性の高い計器盤を備えている。操縦手の前方視界は、キャビンの形状により見晴らしが良い。デューロ3の後部カメラは、後進の負担を軽減し、周囲の監視を補助する。電気ヒーター付きガラスと調整可能な電動車外ミラーは、操縦手席から調整できる。
 操縦室への乗車には二つの大型ドアを使用する。フロント及びサイドガラスは、防弾ガラスになっている。エンジンの保守及び修理作業は野外でも実行可能である。操縦室には、油圧傾斜装置が装備されている。
 操縦手と助手席の同乗者は、操縦室内の内装と機材の全てが対地雷化されている。緊急時のために操縦手と助手席の同乗者にはひとつの緊急避難用ハッチが用意されている。
 デューロの走行に必要な部分は、操縦室後部の装甲化されたスペースにまとめられている。この中に、NBC防御装置、燃料タンク、ブレーキ・ユニット、バッテリー、冷却水タンク、車両電子装置(ベトロニクス)が搭載されている。

後部モジュール
 デューロ3の特徴にモジュール構造がある。操縦席と後部スペースは別構造となっており、非装甲或いは装甲化されたミッション・モジュールを搭載する事で各種任務に対応できる。ユーザーの需要にあわせたモジュールを基本シャシーに載せることで医療、監視偵察、爆発物処理、通信等の各種任務に対応できる。各種派生型を同一のシャシーでまかなう事は、調達コストや兵站面で有利に働く。
 デューロ3は15㎥の積載空間がある。輸送型では5.5t以上の路上積載能力があり、完全武装の兵士なら14名(操縦手・車長含む)が搭乗できる。後部モジュールのは高さ1.5mだが、ハイルーフ型は1.8mの高さがある。これは医療部隊向けのバージョン等に使用されるもので、医療部隊員が立ったまま患者を治療できる。
 後部モジュールは、発電機を搭載しており車両から独立してNBC換気装置、エアコン、を使用することができる。積載モジュールの全ての装備及びシートは、対地雷防御されている。デューロ3の異なった構造もまた、非常用ハッチを装備している。これにより、迅速に車両を離れることができる。

 本車の重量は約12tで、C-130ハーキュリーズやC-160トランザール、そしてA400といった輸送機により空輸可能であり平和維持活動に適している。C-160輸送機なら1両を輸送することができる。

機動性
 
少し古い感じがする動画だが、足回りのアップや後部モジュールを交換するシーンやがあり興味深い。

MOWAGのデューロ3公式動画もどうぞ(開くといきなり再生されます)
 ドイツ連邦軍仕様のデューロ3の走行性能に付いて発表されていることは少ないが、最高速度100㎞/h、航続距離は700㎞も可能であり、満載状態で60%の傾斜を克服するとされている。以下は、デューロ3のドライブトレインの構造。
エンジン

 デューロ3は、カミンズISBe250ターボ過給機付き空冷6気筒ディーゼルエンジンを装備している。このエンジンの性能は、排気量5883ccm、184kw(250PS)、1分あたり2400~2500回転となっている、さらにこのエンジンは低燃費で、排ガス規制EURONORMⅢに準拠している。
変速機

 シリーズ2000トルクコンバーター付き5速自動変速機とÜberbrückungskupplungが、車軸と車輪に動力を伝達する。Verteilergetriebe(トランスファー?) は、モワーグ2S22二段シンクロ式Verteilergetriebeで、トルセン式セルフロック作動歯車装置と組み合わされている。
懸架装置

 デューロ3懸架装置は、3軸のド・ディオン・アクスルで頑丈なラダーフレームに懸架されている。スタビライザーは、アクセル・ジョイントの両側で接続されている。これにより、全ての野外環境下で高い機動性を発揮し、乗員にとって乗り心地が良い。
ブレーキ

 3つの車軸を持つデューロ3は、ABS装備の空気ブレーキと油圧ディスクブレーキを装備している。これは、路上と野外の両方で良好な走行安全性をもたらす。加えて、デューロ3はラインメタル・ランドシステムのAbgasrückschlagklappe(空気圧作動式排気ガス後退弁?)DauerbremseinrichtungFederspeicherfeststellbremse(スプリング式補助ブレーキ?)として使用できる。
タイヤ

 車輪は、2分割のアルミ製ホイール20×11と335/80 R 20 141 K XZLのタイヤを使用している。これはランフラットタイヤで、破損しても約50㎞走行することができる。

  
防御力
デューロは引渡された時期により装甲の形状が異なっている
  
後期に引渡されたデューロ3
Photo by Rheinmetall
 
初期に引渡されたデューロ3
Photo by heer
ヤクの防御力
 ドイツ連邦軍のデューロ3はラインメタルが装甲を取り付けているため、原型のデューロ3Pの装甲とは異なっている。
 デューロ3ヤクの防弾能力は、STANAG 4569 レベル2に対応したものになっている。これは、30m離れた地点から秒速695mで発射された7.62m×39徹甲弾に耐え、榴弾の砲弾片に対しては120メートルの地点から秒速630メートルで発射された20ミリの砲弾片に耐えられるというものである。
 対地雷防御力は、STANAG 4569 レベル1の対地雷防御力を備えている。これは対人地雷や手榴弾が車体下部で爆発しても耐えられるというものでる。しかし、2006年のGFF(装甲指揮・支援車両)調達プログラムのトライアルに参加したときはレベル2Aとされていた。これは6㎏までの対戦車地雷が車輪の下での爆発に耐えられるというものである。
 デューロ3の装甲はメッペンにあるBWB(連邦武器技術及び調達局)の試験場でテストされた。この結果、防御構造はより強力なものを追加することが可能であるとされた。

NBC防御装置
 この他、NBCベンチレーターがドライバー・キャブと後部の多目的モジュールに、それぞれ一基ずつ装備されている。システムは非常に効率的で、汚染地危機で長時間使用できる。装置のフィルターは、戦場で簡単に交換することができる。この防御換気装置は、連邦軍のほとんどの装甲車両で使用されている。

 
派生型
 
UAV LUNAを回収するためのネットを装備したデューロ3
Photo by Heer
生産と配備
 ドイツ連邦軍では、既に医療部隊、憲兵隊、爆発物処理部隊、そして無人偵察機LUNAの地上ステーションとして配備されている。
 ドイツ連邦軍は2002年12月に装甲救急車型12両を発注し、2004年4月から引渡しが始められ、アフガニスタンのISAFで使用が始められた。
 その後2003年7月に、憲兵隊型4両が発注され、爆発物処理隊向けの10両が発注された。2005年9月には、100両の導入が決定された。100両の発注の内訳は31両が医療部隊向け、23両が憲兵隊に、21両が爆発物処理隊、残りの25両は各種の支援車両のプラットフォームとされる。このうち14両は連装放水銃装備の捕虜輸送車になる。
 2007年末には、6両のLUNAの地上ステーション型と1両の化学偵察型が発注された。残りは防空車輌と地形情報支援車となる。
 また正確な採用時期と採用数は不明であるが、無人偵察機LUNA(ルーナ)の地上コントロールステーションと発射・回収車が導入されている。

放水車兼捕虜輸送車
 デューロ3の派生型で詳細が分かるものは少ないが、放水車兼捕虜輸送車についてはある程度情報があるので記述する。
 本車は、警察や特殊部隊が暴徒鎮圧任務に使用する放水車として開発された。本車は、二本の銃身をもつデュアル・イントルーダー・システムと呼ばれるパルス放水銃を装備している。これは圧縮空気により12リットルづつの水を高圧で発射するもので、従来の放水銃と異なり選択的に目標に放水することができる。このシステムは、レーザー測距装置付きのCCDカメラを備えており、車内の液晶モニターを見ながら安全に操作することができる。またこの映像は録画することもできる。パルス放水銃の仰俯・旋回は油圧装置で行う。


Photo by Rheinmetall

 ドイツ連邦軍は既に使用されている任務以外にも、指揮及び偵察、観測、連絡、兵站、に使用できるとしている。

 諸元
出力 184 kW (250 PS)
最高速度 100 km/h
重量 12t
積載量 5.5t
武装 モジュラー式 (機関銃、重機関銃、自動擲弾銃)
乗員 完全武装の乗員14名
数値はドイツ連邦軍公式サイトによる
参考資料
ウェブサイト
ドイツ連邦陸軍公式サイト;ューロ3の紹介
ラインメタルAG公式サイト;製品紹介
モワーグ社公式サイト;製品紹介
wikipedia.de.Bucher-Guyer AG
おすすめサイト
Panzerbaer.de様;画像いろいろ有ります。
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あとがき
医療部隊やEOD部隊が使用する車両ということでちょっと地味ですが
デューロ3 ヤクは現代の戦闘環境を体現しているように思われます。
これまでドイツ連邦が想定してきた正規戦では明確な戦線ができるため、後方で活動する支援部隊は比較的危険が少く、装甲車両はあまり必要とされませんでした。

しかし現代の平和維持活動では明確な戦線が発生しにくく、支援部隊もゲリラ戦術をとる武装勢力からの銃撃やIED攻撃に備える必要に迫られるようになったのです。
ドイツ連邦軍は、ヤクよりも大型のGFF4と、大型の装甲輸送車GTFの調達も進めているよ。
平和維持活動に使用する車両は、全て装甲化するのかな?
ドイツ連邦軍は、装輪装甲車の配備に力を入れており
これらの全体的な状況についても解説したいのですが
今回は、これでおしまいです。
また来てね☆
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